3.無料化が引き起こす弊害

さらに、高速道路料金の無料化によって引き起こされる弊害もある。

まず、渋滞がおきやすくなる点である。そもそも利用料金を低くすればするほど、超過需要を生みだし、供給量を超えて混雑現象が生じるのである。実際、麻生政権が2009年から生活対策として期間限定の高速料金引き下げを実施したが、一定の距離移動において、自家用自動車の利用者が一般道から高速道路へ利用をシフトしたため、都市部を中心に高速道路での渋滞や混雑が生じた。公定価格を人為的に低く抑えたため、需給バランスが崩れた結果である。

社会実験は、北海道や東北、山陰、九州などの基幹高速道路ではない区間で実施されているにすぎない。つまり、渋滞がおこりにくい区間がほとんどといっていい。それでも、平日は1日当たり約3区間で、休日は1日当たり約10区間で、全体の交通量が増加して渋滞を引き起こしているといった現象もみられた。このまま高速道路の一部区間を無料開放し拡大していっても、利用者は、かえって不便を感じ混乱を生じさせるだけではないだろうか。しかも国土交通省は、無料化による利用の増加や、一般道の渋滞緩和といったプラスの結果のみを情報公開し、渋滞などのマイナス面について、国民にほとんど公開していない。

首都高速や阪神高速を除く全高速道路で無料化を実施すれば、利用者ニーズの高い区間も多く含まれているだけに、必ず渋滞問題は起こりうる。こうした点について、民主党政権は、高速道路の出入口を増設すれば、渋滞は緩和されるとしている。しかし、無料化と出入り口の増設によってアクセスがしやすくなると、高速道路の利用者は増加していく。これまで高速道路を利用していた人たちは、時間を節約し渋滞を回避したいから、高い使用料を払ってでも利用してきた。もし高速道路が無料で使えるなら、信号で停止しなければならない一般道路より、高速道路を選択するのは当然だろう。

不用意に利用者を増やして超過需要を生みだせば、都市部などではいま以上の渋滞がおきるだけではないだろうか。利用者が費用負担を負うことで、特定のサービス消費をするという受益者負担の原則が崩れてしまうのである。需要幅が大きく変動し、超過需要の区間が生じれば、道路の増設や拡張が必要となっていく。その結果として、過剰な設備投資を誘発し、非効率な投資を余儀なくされていくのである。

高速道路料金の無料化が全国規模で実施されると、鉄道や航空、フェリーなどの公共交通機関への悪影響も懸念されている。つまり、自家用自動車の利用者が増えることで、公共交通機関の利用者が減り、収益を圧迫しかねないのである。その結果、減便や路線廃止などに追い込まれ、公共交通に頼らざるをえない障害者や子ども、運転能力の失われた高齢者、自動車を所有できない社会的弱者などにも影響が及ぶ可能性もある。

実際に、社会実験の影響で、西日本鉄道が収益源だった高速バスの不振から赤字路線バスを廃止したり、瀬戸内海のフェリー会社が一部航路を廃止したりもしている。確かに、産地から消費地へ商品を運びやすくなるなど流通の効率化が図られ、高速道路を使用する流通業者がコストダウンしやすくなり、生活コストも引き下げられていくかもしれない。だからといって、高速道路利用者だけが恩恵を受け、他の交通機関がマイナス影響を被ることは許されていいはずはない。

また、消費者の移動距離が延びることで新たな需要を生み経済活性化につなげるのであれば、公的に高速道路だけを優遇するのではなく、他の交通機関と公平な条件のもとで競合していくべきだろう。このままでは、地域の公共交通を維持するため、地方自治体などが交通事業者に対する救済・支援措置として税金を投入せざるをえなくなるなど、かえって公的負担が増えてしまう恐れすらある。

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2.高速道路料金の無料化は正しいのか

地方活性化と流通コストの削減を目的に、民主党政権は、高速道路料金の原則無料化を進めている。民主党は、高速道路料金を無料化した際、維持・管理と債務返済に必要な財源は、道路予算の一部振り替えと、渋滞・環境対策の観点から例外的に徴収する大都市部の通行料でまかなっていくという。

民主党政権は、まず地域経済への効果や、渋滞・環境などへの影響を把握することを目的に、2010年6月から高速道路無料化の社会実験を実施した。2010年度は、37路線50区間の合計1626キロメートルが無料化実験の対象となった。これは、NEXCO3社の管理道路のうち、首都高や阪神高速などの都市高速と、地方道路公社や民間企業が運営する有料道路などを除いた高速道路の全延長の約18%に相当する。

新幹線やフェリー、路線バスなどの公共交通機関への影響が生じる恐れのある区間や、渋滞が予想される東名・名神など主要基幹路線、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡の各都市圏内、それら各都市圏間を結ぶ路線、各都市圏と県庁所在地を結ぶ路線、土日・祝日に終日5割引・上限1000円で渋滞した地方路線などは対象外とされた。

2011年度より、社会実験の影響結果を踏まえ、高速道路を無料化していく予定だったが、2011年3月11日の東日本大震災の影響により無料化実験は一時凍結、復興費用をまかなうべくETCの休日1000円割引制度も廃止された。その一方で、道路整備特別措置法第24条に基づき、災害時における無料開放措置として、被災者や、福島第一原子力発電所事故の避難者は当面1年間、復旧・復興支援に関しては当面2011年8月末までという期間限定で、東北地方の高速道路料金を無料化することとなった。

では、本当に高速道路料金の無料化が正しい選択なのだろうか。

高速道路料金の無料化により、高速道路設備の建設費の償還、維持・管理費を税金で賄うことになるため、利用者ではなく、国民全体に転嫁することとなる。高速道路は、当初、原則として建設時の借入金が各路線の収益により返済されれば、随時、無料開放する位置付けだったが、田中角栄によって料金プール制が導入されたことにより、全国の高速道路の収支を合算することとなった。このため、赤字国債によって建設費を賄い、東名高速など利用者の多い黒字路線の収益で他の赤字路線の借入金を返済する仕組みになったのである。これにより、高速道路網の整備が着々と進められてきた。

ある程度、高速道路網の整備が進められ、財政事情が厳しい今日、国主導で進めてきた道路整備の仕組みを改めるべく、2005年に道路関係四公団が民営化された。また、日本高速道路保有・債務返済機構法により、民営化後45年以内に借入金を返済、残った借入金については税の投入で償却することで、高速道路の全面無料化が実施されることになっていたのである。

民主党が描くとおり、首都高速や阪神高速を除く全高速道路で無料化を実施した場合、利用者負担軽減額は1.8兆円といわれている。つまり、民主党政権は、ただでさえ財政事情が厳しいなかで、その分を財政で補填しようとしているのである。再び公的な責任で運営するという国有化に近いスタイルに戻ってしまう恐れすらある。

また、国民間での不公平感も強い。税金で負担する以上、誰もが同じ負担となるため、高速道路をよく利用する者は恩恵を受けやすく、利用しない者は恩恵が少ないとして、不公平感が生じやすいのである。自動車を持たない人たちからしてみれば、直接的な恩恵を受けることがないために負担感だけが残る。しかも自動車保有者は、景気対策の一環で、エコカー減税などの恩恵を受けてきた。そのうえ、ガソリンの暫定税率廃止や、高速道路料金の無料化で、民主党政権は自動車保有者に対して優遇を行っていこうとしている。こうした国民間で生じる恩恵と負担の差に、納得がいかない人たちがいてもおかしくない。

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1.抜本的な見直しが求められている公共事業

民主党政権は、「コンクリートから人へ」というスローガンのもと、公共事業関係予算の大幅な削減を実施した。公共事業1.3兆円の削減を単年度で実施したことにより、当初予算比18.3%、2次補正後予算比約34%の減少となっている。

これまで公共事業は、国民生活の利便性と生産力の向上を目指す経済対策であり、地域への再分配政策でもあった。また不景気時には、公共事業により短期的な需要拡大による経済効果を生みだすための景気対策でもあった。右肩上がりの経済成長期は、社会資本整備のための借入れがあってもGDP拡大とともに償還が可能だった。しかし、一定程度の社会資本が整った今日、公共事業の全体量を闇雲に増やしても、景気浮揚や地域活性化にはつながりにくくなっている。社会が成熟し人口減少と高齢化が進むなかにあっては、よほどのことがない限り、高度成長は見込めないだけに、成長頼みの償還は現実的ではない。GDPの約1.7倍規模もの長期債務を抱える以上、新規投資に回せる財源を確保することも難しい。そのうえ、既存の社会資本の多くは、高度経済成長期に集中的に整備されたものであり、老朽化に伴う維持管理費・改修費の大幅な増大も見込まれている。

これまでの硬直的な予算配分により、必要性の低い事業も数多く実施された公共事業の実態も明らかとなっている今日、抜本的な見直しは不可避となっている。少なくとも、国民生活や生産性の向上に直結し、かつ中長期的にも日本の発展に資する効果的な社会資本整備を、限られた予算内で進めていく必要がある。つまり、何に投資して、その経費をどのように償還していくかといった、しっかりとしたシナリオを策定していくべきなのである。近年、道路・空港・港湾など事業別整備計画から社会資本整備計画に一本化するとともに、事業のアウトカム目標を提示、民間の資金やノウハウの活用など、事業の重点化や効率化を図る仕組みへとシフトしつつある。

しかし、こうした公共事業関係費の削減や策定方法の改善は、これまで進められてきた社会資本整備の見直しの延長線上にすぎない。民主党政権の描く21世紀の社会資本の全体像はいまだはっきりとしないため、大型公共事業の凍結・見直し、公共事業費の抑制に留まっている。

実際、日本の公共事業費の対GDP比は、欧米諸国と同規模まで縮小している。社会資本整備を削減するプラス効果はもはや薄れているのではないだろうか。また、災害リスクや高齢化社会への対応、通信といった地域社会や国民が求めている社会資本整備が進まないことで、かえって日本経済や地域の疲弊を誘発している可能性すらある。さらに近年、中国や韓国など成長の著しいアジア諸国による大規模な公共投資が積極的に進められているなかで、日本の国際競争力が低下していくことも懸念され始めている。

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4. 民営の介護施設の整備や運営を可能に

財政がひっ迫するなか、国や地方自治体が公的介護施設の増設を推し進めたところで、介護供給量には限界があり、介護施設は緊急性の高い高齢者を優先的に入所させるなどして対応せざるをえない状態が続くだけだろう。これまでのように介護施設の増設を国や地方自治体任せにするのではなく、低く抑えられた介護施設等利用料の適正化を図ったうえで、低コストで効率的な運営が可能な社会福祉法人や株式会社、NPOなどに任せていくべきである。また、全国に設置している公的介護施設の運営を、社会福祉法人や民間会社、NPOなどにアウトソーシングし、国は介護利用者保護の観点からしっかり監督することに専念していくべきである。

ただ、介護事業は公益性の高い分野であり、民間事業者が介護事業で採算をとるには時間もかかる。介護施設の用地取得や施設等建設費といった初期コストが多くかかり、よほど経済的余力のある民間事業者でない限り、たしかに参入しにくい。需要にみあった分の介護施設等を増やすためには、地方自治体が民間事業者の取り組みをサポートしていくべきであろう。具体的には、土地収用法を適用して介護施設用の用地を確保し、民間事業者に公有地を無償譲渡もしくは貸与を行って、介護施設の設立・運営をおこなってもらうようにするのである。

民間事業者に公有地を無償譲渡もしくは貸与する際、地方自治体は、民営の介護施設を一カ所に集積して高齢者コミュニティを形成することを前提に進めてはどうだろうか。さらにいえば、公園、高齢者向けバリアフリーマンションや高齢者専用賃貸住宅、低所得高齢者向けバリアフリー公営住宅、医療施設なども集積して、高齢者による高齢者のためのコミュニティタウンを形成していくのもいいだろう。

実際、アメリカでは、高齢者が集まって市街地から離れた郊外に街を形成し暮らすという、シニアタウンが約2000カ所ある。カリフォルニアのラグナ・ニゲルには、高齢者たちが巨大なタウンを形成し、いきいきと暮らしている。こうした街には、病院のほか、公園、文化・娯楽施設なども備えており、高齢者が数万人規模で構成する街もあるという。アメリカに住む人々は、それぞれのライフステージに応じて住宅の住み替えを行うケースが多い。体の自由がきかなくなる年齢になると、高齢者は、高齢者医療や介護が充実した高齢者向け集合住宅などに移り住むケースもある。アメリカ以外でも、福祉などが充実しているデンマークやフィンランドなどでは、高齢者が生活する上で必要な関連施設を集積して、シニアコミュニティを形成しているところもある。

こういった試みは、限られた資源や財源を有効活用できるとともに、医療・介護の効率化やライフスタイルにあった多様なサービスも充実させることが可能となる。今後、介護施設の増設、高齢者住宅の普及、住宅地などのバリアフリー化推進など、まちづくりとコミュニティ形成の観点から、シニアタウンのような考え方を積極的に取り入れていくべきである。地方自治体は、介護施設等の建設や運営を民間に委ね、こうした部分でイニシアティブを発揮すべきだろう。また、地域ごとの福祉ニーズや介護需要に適切に対応するため、原則、地方自治体が事業者資格要件や施設基準などを決定できるよう、抜本的に見直していくことも大切である。

一方、民間事業者が介護施設等を建設する際、どのように資金を確保すべきだろうか。金融機関などから融資を受けるなどがありうる。しかし、参入する企業がよほど信用力の高い大手企業か、この分野での実績がある民間事業者でないかぎり融資を受けるのは容易ではない。このことから、たとえば民間事業者が介護施設の周辺地域などから一口50~100万円で会員を公募し、その資金をもとに介護施設を建設していってはどうだろうか。会員には、特典として本人が老後になったときや会員家族が、その介護施設に優先的に入居できる権利を与える。民間事業者は、こうした手法で資金調達する以上、財務状況や介護の運営状況などについて、会員などステークホルダーに対する説明責任が求められる。つまり、民間事業者は、社会的信用を維持し、また事業拡大に向けた資金調達を行っていくためにも、透明性ある経営と説明責任に積極的に取り組まざるを得なくなるのである。

さらに、介護の可視化も進む。残念ながら、いまだ介護に対する心理的壁が立ちはだかっている。誰もが認知症を患う可能性があるにもかかわらず、認知症を患った高齢者が突然徘徊したり呻き声をあげたりする姿をみると、不安に駆られる人たちもいる。その多くは、認知症や機能障害といった病状をよく理解していないから不安に感じる。つまり、介護への理解をもっとひろげ、介護を身近なこととして認識してもらうことが必要なのである。

介護の可視化は、現時点で介護が必要ない世代の人たちに会員になってもらう以外にも、介護施設内には、地域交流サロンや幼稚園・保育所などを併設するといった方法がある。小さな子どもをもつ若い世代の母親が、人生の先輩たちに子育てや悩みについて気軽に相談に乗ってもらったり、近隣に住む元気な高齢者や女性、若者などにボランティアで介護に参加してもらったりするのである。こうした地域と高齢者たちとのふれあいを通じ、身近なところに介護があることで、より日常的なこととして捉え、介護を含めた老後について考える機会をもつことになるだろう。

また、介護を受ける高齢者は、しばしば引きこもりがちで、次第に社会との接点をなくしていく場合が多い。その結果、認知症も進行する場合がある。このため、高齢者たちにとって、地域住民との交流や、園児が介護施設に週2回程度は遊びにくるといった社会との接点が大切で、それをもちつづけることで、介護予防や認知症予防につながりうるのである。

こうした民間事業者の参入などにより、介護施設が増え、入所希望の高齢者の受入れ規模が拡大すれば、介護福祉士など介護従事者の雇用も拡大されていくこととなる。また、小規模多機能型居宅介護や在宅療養サービスなど、介護利用者の求める多様なニーズに対応したサービスが拡大していくと、看護師や栄養士、警備員などにも雇用が広がる可能性が高い。

ただ、介護施設等の利用料が低く抑えられているため、介護従事者の給与水準が低く、労働条件は厳しいままである。2007年のコムスン不正受給問題などをきっかけに、介護従事者の処遇改善を求める声が上がり、2008年には介護従事者処遇改善人材確保法が成立、09年の介護報酬見直しで3%引き上げられた。09年1月時点の有効求人倍率(全職業0.65)は不況といわれるなか、社会福祉専門の有効求人倍率は1.82と高い。にもかかわらず、資格専門職である介護福祉士などが不足状況という介護施設は多い。中長期的に安定した人材確保も難しくなるだけに、民間事業者の参入を実質的に認めると同時に、介護施設等利用料の適正化を図り、介護従事者たちの雇用環境を改善していくべきである。

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3.介護施設に入れない待機高齢者

 これまで介護保険制度のもと、介護の社会化を図り、介護施設やサービスなどを充実化、利用者の心のバリアフリー化などが進められてきた。介護保険制度がスタートして以降、介護保険事業所のほか、特別養護老人ホームなどの老人福祉施設が各所に設けられ、入浴や食事など日帰りで介護が受けられるデイサービスをはじめとするサービスの充実、介護サービス計画を策定するケアマネージャー(介護支援専門員)の配置などが進んだ。

しかし、介護の現状は依然、厳しいままである。介護サービスの利用実態からみると、要介護1~3は居宅サービスが多い一方、重度の要介護5になると施設サービス利用が半数を超える。つまり重度の要介護者になるほど、常に介護が必要となる。自宅で介護を受けることが難しいほど、介護設備などが整った特別養護老人ホームに入り、日常生活で必要な介護や機能訓練、療養上の世話などのサービスを受けたい希望者が増えていくのである

問題は、特別養護老人ホームに入れていない待機高齢者が多くいる点だ。特別養護老人ホームは、全国約6000カ所にあり、約41万人(2008年現在)が入居している。しかし、厚生労働省の平成21年調査によれば、特別養護老人ホームの入所待機者数は、全国で約41.2 万人もいる。しかも在宅の入所待機者(約19.9万人)の34%が重度(要介護4~5)で、こうした人たちが自宅での家族介護などを受けている状態である。

また、介護老人保険施設(32%)や医療施設(24%)など、実質的に長期滞在できない施設を利用している入所待機者(約22.3 万人)もいる。また、在宅の入所待機者で軽度要介護者(要介護1~2、39%)であっても、単身世帯などを中心に、常時職員のいる施設への入所を希望するケースも増えてきている。特養老人ホームは、入居金不要で、相部屋で月数万円~10数万円と比較的低料金であり、しかもいったん入所すれば、終身利用できる。それに対し、有料老人ホームは、自己負担面で割高である。このため、割安感の特養老人ホームに入所が殺到している。

約41万人という待機高齢者数には、複数の施設に入所申込をしている者も含む延べ人数の可能性もあるものの、特別養護老人ホームが圧倒的に不足している現実は動かしようがない事実である。

さらに、認知症を患い介護が必要な高齢者たちが共同生活を営む、グループホームも足りていない。グループホームは、全国で総定員数約14万3000人だが、認知症高齢者数は軽度も含め約150万人もいるとさえいわれている。

 2010年に国土交通省が行った「住生活に関する国民アンケート」によれば、介護が必要になった時、6割以上が介護施設、続いて医療・福祉サービス付き住宅(55.4%)を望む声が多いという。

にもかかわらず、特養老人ホームなど公的介護施設の新設が伸びないのはなぜだろうか。

実は、これまでの介護政策の基本は、在宅中心の介護を前提に推進してきた。このため、厚生労働省により、特養老人ホームなど施設等への総量規制がかけられてきたのである。民主党政権になって、この総量規制の目安を撤廃し、特養など16万人分を2011年までに増やす方針を決めている。

しかし、厚生労働省は依然、増設には慎重な姿勢を崩していない。国や地方自治体の財政事情が厳しく、介護保険制度の財源問題が解決していないなかで、公的介護施設の整備をすすめることができないからだ。介護施設ホームをつくるには、適切な用地を取得して建物をつくっていく必要がある。つまり、介護施設を増設するにも時間を要するうえ、税金投入率が高くついてしまうために、地方自治体などは躊躇しているのである。

さらに、供給主体の高コスト体質のわりに、介護施設の利用料も税金を投入するなどして公定価格で低く抑えられている。実際、東京都の特別養護老人ホームでは、建設費が1ベットあたり約2000万円という異常なまでの高コスト体質がみられる。にもかかわらず、介護施設の利用料が必要以上に低くなっている。つまり、利用者の費用負担額が少ない分、供給量をはるかに上回る超過需要を生みだしおり、特養老人ホームへの入所希望が殺到する構造となっているのである。

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